6月毎月短歌【現代語テーマ詠】の選者をさせていただきます、澄田広枝です。
テーマは、「光」、144首の作品に出会うことができました。
太陽、月、星などからの自然光、人間が創り出した人工的な光、漢字の「光」ひらがなにひらかれた「ひかり」、実に多種多様な「光」に出会うことができました。光に付随する影の側から詠っている作品も多く、興味深く読ませていただきました。
★ゆるら短歌賞★として、8首選ばせていただきました。
① 雨は檻 ねぇ、ホモ・エレクトスわたしたち淋しさのんでひかっちゃんうんだ みつき美希
初句の導入の言葉に、ドキッとしました。作品は軽い話し言葉のようでいて、深く内包しているものがあると思います。更新世に生きていたと思われるヒト科のホモ・エレクトスに話しかけるというつくりで、一首はできています。言葉など持たず命の根源であるような対象へ、ありあまる言葉や情報を手に入れることができる私達が、その満たされた時代であるが故のさびしさを吐露していると読みました。
「雨は檻」と「淋しさのんで」も、あたかも、雨粒を飲んで発光しているように響きあっていて印象的でした。
②人間と恐竜なんて比べても仕方がなくて光る爪切り 短歌パンダ
上句は、そんなの当たり前というふうに思わせて、結句のインパクトをひときわ強くしている印象でした。「爪切り」という地味な素材を光らせることによって、上句にもどって、何か意味があるのではないかと思わせる、その演出がおもしろいと思いました。「恐竜」が出てきたことによって、一首の時間軸がとてつもなく広がっていると思います。
③つやつやの茄子で光の輪を作るようにレイジースーザン回す インアン
「レイジースーザン」を知らなくて、知らないままでも、その言葉選びに惹かれました。人の名前のようにも思われるそれは、回転皿なのですね。茄子の濃い紫がつやつやと光って、光の輪をつくる、現実としてあり得るかどうかではなく、ファンタジーのように映像を想起してみたい一首でした。
④森林浴きみの自画像に残された絵筆の抜け毛のひかりやわらか 畳川鷺々
「絵筆の抜け毛」に注目しました。「きみ」はもうこの世にいない人で、自画像だけが残されています。自画像は、その人の生前を写し取っているとは言え無機質なものです。そんな中で、「絵筆の抜け毛」を見つけてしまいます。きみの抜け毛ではないけれど、唯一命が通っていたものとして、作中主体の心を捉えたのだと思います。視点の繊細さに惹かれました。
⑤命賭けるとか言うなよ蛍光灯の束で殴られたことないくせに 汐留ライス
簡単に「命賭ける」なんて言って欲しくないという強い思いが、暴力的と思われる下句へと繋がっています。破調のつくりが、自らの思いもどんなふうに伝えたらいいのかわからないけれど伝えたいという綯い交ぜの思いにつながっていると思います。
⑥理科室の暗幕に穴があいていて閉めるとみえるカシオペア座が 月乃さくは
普段ほとんど閉じられていて、たまに映像などを見る時に、広げる理科室の暗幕。暗い夜空のように思えるその暗幕に、ぽつぽつと穴が空いています。集中するのは、前方であるべきなのに、主体は、あっ、あれはカシオペア座だ、あれは…と想像を膨らませてしまいます。現在の学校の設備では、視聴覚機器が充実しているので、黒い暗幕などは使わなくなってしまったのでしょうか。
⑦ひかりって速さがすごい感覚が先に奪われていくなら恋 まちのあき
光速は、地球から月までは2秒、太陽までは約8分、けれども、恋はそれ以上、感覚が奪われてしまうほどの速さで落ちていくものだと言ってのけます。その有無を言わせない大胆さに読者が引き込まれてしまうおもしろい一首だと思いました。
⑧木漏れ日の光の部分を踏んでいくステップみたいにつま先立ちで 宇井モナミ
色彩や光の印象を大胆に表現する印象派の絵画を想起しました。木洩れ日のなかを、少女が踊るように通り過ぎてゆく構図です。主体は、そのような状景を頭の中に描きながら、自らも少女のようにステップを踏んだのでしょうか。「木漏れ日の光の部分」にリアリティがあって臨場感があります。