ねぢ山のすり切れるまで巻きしめし冬の心を椿がわらふ
雨はれて二輪草咲く野の道は夢の入り口あるいは出口
風、ひかり、希望、泥棒だって来る窓なり白きカーテン揺れて
公園で手洗ふ人の袖口に触れて小手毬ほろほろと散る
藤棚の下に思へり首を抱きうしろから刺す終はらせ方を
聖五月ゆふかたまけて降り出でし雨は生蜜のきらめきを帯ぶ
嘘をつく、でも約束は守り抜くそんな貌して欅の立てり
ある夜ふと風の尾と尾のつながりて季節は秋に移りゆくなり
はぐれたる大事な人と出会ふため生まれて来しや夕日うつくし
蓋のなき箱と底なき筥ありぬ恋を容るるにいづれ良からむ
熟れてゆく水のおもてに蝶の来てはさみのやうに翅かさねたり
竹群の竹濡れてをり隣り合ひつつも触れてはならぬものある