ゆるら短歌diary

ゆるらと、短歌のこと書いていきます  

紀水章生第三歌集『着地点のない日常』を読む

著者は、川柳をつくり、ドローンを自在に操り、YouTubeでは、美しい映像に短歌の朗読を重ねた作品を、次々と精力的に発表している。歌集『着地点のない日常』は、そんな著者の第三歌集である。 文字盤の消えてしまった時計からじかんを盗む如月の雨 音のない…

白井陽子歌集『切り株』を読む

読み終えて、しばらく泣いた。悲しさではなく、なつかしさとぬくもりと、切なさが入り交じったような涙だった。著者の半生を共に生きたような感慨があった。 白井陽子さんは、2013年に塔短歌会に入会したと記されている。すぐに自ら案内を見て、和歌山歌会に…

大引幾子歌集『クジラを連れて』を読む

著者は、大学四年(1980年)に塔短歌会に入会したと、あとがきにある。歌集『クジラを連れて』は、長く短歌を詠み続けた著者の二十代から四十代半ばの作品を収めているという。 〈ふれあふ〉と書くときスカートたつぷりと裾ひるがえるような〈ふ〉の文字…

光野律子歌集『ミントコンディション』を読む

鳥の羽をモチーフにした美しい装幀である。「かりん」所属の光野律子の第一歌集、『ミントコンディション』とは、「新品同様」という意味らしい。古物取引の場で使われる用語ということで、画廊のバックヤードに三十五年近く勤めたという著者ならではのタイ…

中井スピカ歌集『ネクタリン』を読む

一冊を通して、作品に勢いを感じた。それは、他者を威圧するような勢いというのではなく、ポップコーンがはじけるようなカラッとした軽やかな勢いのなのだ。まっすぐに、素直に、それは読者の心に響いてくる。 まず、序章として、そして後半の折々に詠われて…

丸山順司歌集『鬼との宴』を読む

節分も近いので、鬼の歌集を・・ 丸山順司第二歌集『鬼との宴』である。 第一歌集『チィと鳴きたり』を読んだときには、読者が身構えずに入ってゆける穏やかさと懐の深さを備えた歌集だと思い、その心地よい魅力にとことん浸りながら歌集を味わったように思…

金川宏歌集『アステリズム』を読む

予測変換にたっぷりと浸っている日常のなかで、この『アステリズム』は、その予測変換的なものをことごとく裏切って、バッサバッサと切り捨て、その意表のついた切り口を、あらゆる方向から晒して見せてくれたという感じがする。 平凡に着地はしない。どこま…

𠮷澤ゆう子歌集『緑を揺らす』を読む

潮のにおいがする。波の音が聞こえる。島影が見える。森の木々の葉擦れの音がする。かと思うと、遠い異国の町並みや石畳、大いなる川の流れ、そこから重厚な音楽が聞こえてきたりする。 塔短歌会所属の𠮷澤ゆう子さんの第一歌集『緑を揺らす』。 この歌集は…

牛隆佑歌集『鳥の跡、洞の音』を読む

牛さんに、私の歌集をお送りしたいと、メッセージした時、「せっかくなのですが、歌集のご恵贈は遠慮させていただいておりまして、関わったものでない限り書店で購入するようにしております。これはささやかながら葉ね文庫など歌集を扱ってくれる書店の売上…

石畑由紀子歌集『エゾシカ/ジビエ』を読む

肉を焼く お前も肉だろうという声が肉からする 肉を焼く この一首が、Twitterに流れてくるのを見たとき、たまらなく「石畑由紀子」という人の歌を読んでみたいという衝動が走った。 何だろう、人間だけがもつものなんてなんになるの、人間としての尊厳なんて…

澄田広枝歌集『ゆふさり』批評会(第二次案内)

澄田広枝第二歌集『ゆふさり』批評会の第二次案内を公開させていただきます。 短歌について、広く楽しく、多くの皆さまとお話ができたらと思います。 ご参加、お待ちしております。

畑中秀一歌集『靴紐の蝶』を読む

畑中秀一(はたなかしゅういち)さんは、白珠の同人。現在、私が参加している「フレンテ歌会」のメンバーでもある。 昨年、40年間勤めた会社を退職し、新しい生活へのスタートとして、この第一歌集『靴紐の蝶』を上梓したということだ。 朝とらえ夜とき放…

澄田広枝第二歌集『ゆふさり』批評会

素敵なパネラーの皆さま、励まし背中を押してくださる歌友の皆さまに支えられて 澄田広枝歌集『ゆふさり』批評会を企画しました。 多くの方々のご参加をお待ちしています。

佐々木佳容子第二歌集『遠い夏空』を読む

『遠い夏空』/2020年青磁社刊 は『白珠』の同人である佐々木佳容子(ささきかよこ)さんの第二歌集である。私が参加している『フレンテ歌会』の先輩である。 この歌集は、四章に分かれている。章を重ねるごとに、編年体ではないということだが、著者の心情が…

紀水章生第二歌集『風と雲の交差点』を読む

『風と雲の交差点』は、2014年に、第一歌集『風のむすびめ』を出版してから、9年ぶりの紀水章生の第二歌集である。 著者の「あとがき」にもあるように、近年、著者は自作短歌を朗読ビデオ化することに精力を傾けてきた。言葉と文字による表現以外の要素とし…

千葉優作歌集『あるはなく』を読む

毎月の『塔』の作品や Twitterに流れてくる著者の作品を読みいつも、わたしの心のなかの風景がそのままとりだされて、目の 前におかれているような感覚に陥る。 それほど、この人の紡ぎ出す言葉の世界は、私が表現したくてしたくて、それでも表現し得ない世…

橋本恵美歌集『Bollard』を読む

穏やかな湖面である。やわらかな陽がさしている。時々、激しい風が来て、水底深くまで揺らしてゆく。 風が通り過ぎると、また、なんでもなかったようにもとの明るくて静かな湖面にもどってゆく。 その一見、明るくておだやかな湖の、深いところに沈んでいる…

大地たかこ 歌集 『薔薇の芽いくつ』を読む

大地たかこさんの第三歌集、『薔薇の芽いくつ』を読む。 自分の短歌がこのままでいいのかと迷い・・・立ち位置が定まっ ても独りよがりな歌であってはいけないと、いくつかの歌会に参加 しています。 という、あとがきを読んで、著者の姿勢をとても素敵だな…

木下のりみ歌集『真鍮色のロミオ』を読む

作者、木下のりみは、同郷の和歌山の歌人である。年齢も近く、もっともっと短歌に関わる話をして刺激をもらいたいなと思いながら果たせないでいる魅力あふれる歌人だ。 真夜中のガラスをたたくかなぶんぶん真鍮色の小さなロミオ 歌集をいただいて、まず戸惑…

田村穂隆歌集『湖とファルセット』を読む

そうか、僕は怒りたかったのだ、ずっと。樹を切り倒すように話した 歌集『湖とファルセット』の帯にある一首である。 いつからだろうか。作者のなかにある沸々としたマグマのようなエネルギー、そのエネルギーの来し方も、行く先も見えないまま、ただそのエ…

溝川清久歌集『艸径』を読む

冬生まれだからだろうか、冬の空気が好きだ。幼い頃、薪を集めるために山に入った。陽のあたらない木陰の湿った土の匂いや、ふかふかとした枯葉の嵩を足裏に感じながら歩くのが好きだった。せせらぎというにはさびしい水音や、鳥の声、さざ波のような風の音…

永田愛歌集 『LICHT』を読む

どのように生きてもたぶんかなしくてときおりきみの指が触れるよ 歌集の装画は、子どもの手遊びで切り取られたようなあかるいレモンイエローの断片が散らばっている。しかし、この歌集を流れているのは、言いようのないさびしいレモンイエローだ。あたたかい…

中林祥江歌集 『草に追はれて』を読む

歌集から、土のにおいがする。畑をわたっていく風を感じる。陽のひかりや、生きものたちの息づかい、ありとあらゆる自然のいとなみを感じることができる。 作者は、土まみれになりながら、農に生き続けている人である。 考へて思ひあぐねし時いつも無花果畑…

涼閑・川柳句集 「瓶からあふれだす夜空」 を読む

歌人であったはずの「紀水章生」が、いつのまにか川柳を詠む「涼閑」とという顔をも持ち合わせていた。 わずか、一年半ほどの間にである。 なぜ、この短い間に、「川柳」という十七音の短詩型が、彼をこれほどまでに魅了したのか。 あふれだした、そして今も…

田中律子 歌集 『森羅』を読む

まどろみのなかに広がる風景のようで、なつかしく、さびしい。どこまでも、どこまでも続く星空の下、波の音が聞こえる。遠くにひとすじの灯りが見える。夜汽車だろうか・・舟かも知れない何処にむかっているのだろうか。 そんな装丁を見つめながら、田中律子…

大森千里歌集 光るグリッド より

至近距離で、作者に一度だけお会いして話した記憶がある。フルマラソンをし、山に登り、看護師をし、眩しいほど明るくて健康的な印象だった。 ひとりよがりの偏見かもしれないが、そんな健康的な作者が、何故短歌なのかと疑問をもった。そして、そんな明るく…

歌集 チィと鳴きたり/丸山順司 より

非日常を消し去り、あえて日常の些細なできごとに焦点を当てた作品が多い。家族や、人間関係のつながりに関わる歌も極めて少ない。 これほどまでに、日常の歌を、これ以上力の抜きようがないというくらい気負いなく詠いながら、これほどまでに、世界が広がり…

光のアラベスク/松村由利子 歌集より

てのひらに森を包めば幾千の鳥飛び立ちてわが頬を打つ 森は、南の島の熱の籠もった森、深く深く、数多の生き物を内包させた森・・この島に移り住んできたという経緯が、未だてのひらに包みきれない森に真向かう作者のやや臆する心情があるのでは・・深読みか…

歌集 苺の心臓/上澄 眠 より 

なんだろう・・大人になって、子どものときに使っていたおもちゃ箱を薄暗い場所から、ひっぱりだしてみる次から次へと時間も忘れて、ひとつひとつ手にのせてみる おもしろくて、なつかしくて、やがてせつない・・ この歌集は、そんな感じだ・・ 菜の花や月は…

遠くの敵や硝子を/服部真里子歌集より

陽だまりで梨とり分けるしずかな手あなたとはぐれるなら秋がいい 陽だまりの縁側、窓辺でもいい、母親が梨を剥き主体にとりわけてくれている。梨は水分が多くて冷たい果実だ。小春日和の温もりの中で、そのしんとした冷たさはいっそう際立つ。 肉親といえど…